七梨乃手記

……あなたは手記に食い込んだ男の指を一本一本引き剥がすと、頼りない灯りの下それを開いた。@N4yuta

死に方を決めろ "Sons of Anarchy"

 

 

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渋すぎる余韻はほとんど疲弊と見分けがつかない。

 Huluで観られるドラマSons of Anarchy、13話×7シーズンをようやく観終わった。

毎朝起きてから出勤するまでの数十分、帰ってから皿洗い等の家事をしながらの数十分ずつ、ゲームのロード待ち、トイレ等様々なダウンタイムに、PCとWiFi入れたスマホを併用しつつちまちま観続けたが、結局半年ぐらいかかってしまった。

このドラマはアメリカの架空の街"Charming(Joke過ぎて毎回笑う)"を舞台に、主にIRAアイルランド解放戦線)から仕入れたAKやGlock等を捌いて生計を立てているバイカーギャングSons of Anarchy、その総長三代にスポットライトを当てたもので、内は警察は勿論中国人マフィアTriads、クスリが本業の黒人ギャングOne-Niners、血の気の多いメキシカンバイカーMayans等と手を取り合ったり殺しあったりしつつ、外はIRAのほかにもメキシカンカルテルとの取引にも手を出したりして、毎回ほぼ失敗する。このドラマにバカと保身しか考えてないバカしかいないからである。御曹司Jaxの天才的な?計略でなんとか毎回詰みの一歩手前でしのぐのだが、それが結局次の火種を呼んで死人を増やし、完全な詰みに7シーズンかけてひた走っていくというどうしようもないリアル・サグ・ライフドラマなのである。

はっきり言って派手な銃撃戦とかカーチェイスも言うほどないし、それよりも圧倒的に多いのは水面下の同盟/裏切りのやり取りやしょぼい倉庫で嵌められたやつを撃ち殺していたり、「どうしよっか・・・」とMTGしているシーンであって、そうやって地道に積み上げた関係性も結局どれかのバカがブチ切れて血を流すので、「これがリアル三途の川の石積みか・・・」という気分にさせられる。

そこには夢はなく、彼らはスーパーマンではない。食い詰めて犯罪に手を染める一市民として、社会の理不尽に対する忍耐と苦悩、そして繰り返される悲劇の連鎖と深まる後悔を味わい続ける。仕事として悪漢になり、一方で裏社会にも表と同様に存在する組織の上下関係と「自分たちは孫請けで使い捨ての駒に過ぎない」という事実に向き合い、なんとかそれぞれの家庭や生活を守ろうとする様は、イケてるワルへの憧れというよりも、お前も苦労してるな・・・というシブい共感を呼ぶ。

SOAの周囲を固めるメンツも層が厚い。腐敗した署長、ヤク中の元妻、メンバーの一人と添い遂げるMtFフリーランス娼婦、レズものAV女優から成り上がってポルノ監督になった未亡人、等等。キャラが立ってる立ってないとか属性がどうとかそんな次元を軽くぶち抜いた連中ばかりである。しかし、皮肉なことに世界中で理想的な標語として掲げられる「多様性」を本当の意味で受容しているのはこういう底辺層である(少なくとも、隔離という概念がないという意味で)。どいつもこいつも余裕がないので、利益が合致すれば助けるし、信頼ができれば肩を抱く。ある意味で公平な、多様な人間関係の在り方がそこにはある。

 

破滅はひとにぎりの自由

それにしてもどいつもこいつもすぐばれるウソを一生懸命守ろうと頑張るバカばっかで観ていて「お前さあ・・・」ぐらいしか言葉が出てこない、愛すべきバカどもの生きざまである。

配られたカード(ブタ)で必死に"Anarchy"という理想を追い求めるその姿は空虚なあがきでしかない。しかし"生きるためのあがき"ではなく、"よく死ぬためのあがき"として捉えると、彼らが固執するクラブの絆と愛の意味が見えてくる。SOAのエンブレム(タトゥ、ベストの柄として背負う)はM4の形をした鎌を持つReaper(死神)だ。 

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 この死神は、彼らに敵対するものに対しての死神を気取るものではなく、それを背負うメンバーそれぞれが、自らの死を想い、それを決めるという決意の表明だ。

どんなに金のない人間でも、上限いっぱいまで借金をすれば一日だけ贅沢ができるように、生きる選択肢のない追い詰められた人間にも、残りの人生を絞り切れば得られる自由がある。破滅の仕方だけは誰でも選ぶことができる。バカはバカなりにどいつもこいつも忠実である。Anarchyという名の死神が決める掟に従い、それぞれの贖罪を済ませて、その理想に命を投げ出す。彼らは敬虔な死の信徒なのである。

 

星が燃え 太陽が動くことを疑っても

真実が嘘だと疑っても

私の愛は疑うな

シェイクスピア

 

脆い嘘で固めてでも、ひたすらに耐えてでも、人であり続けたかった愛すべきアウトローのドラマである。観ているこちらも他人事と思えないことが、このしょうもない破滅への道が7シーズンも続いて完結したことの秘訣かもしれない。

RIP、RIP。お疲れさん。死の事だけは誰よりもわかっている路傍の賢人たちよ。