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七梨乃手記

……あなたは手記に食い込んだ男の指を一本一本引き剥がすと、頼りない灯りの下それを開いた。@N4yuta

言語と銀河と自動通訳 Mass Effect Andromeda

 

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海外RPGメーカーの老舗、BiowareのAAAタイトル『Mass Effect Andromeda』がローンチした。

Commander Shepardを主人公に据えた天の川銀河の物語を描いたMass Effect Trilogyから、タイトル通り舞台をアンドロメダ銀河に変え、未知なる銀河へ入植を試みる開拓者の物語が新たに始まった。

 

Mass Effect 1が出たのがXBOX360の世代で2007年だから、10周年のシリーズになる。自分はこれのアジア版を輸入して以来のファンなので、スペックが明らかに足りないことを知りつつもME3までの見事な最適化を信頼してプリオーダーしてしまい、スペック的には見事に爆死したものの、いろいろ工夫してなんとか遊べている。

TrilogyではTPS・カバーシューターをベースに時間を止めてスキルを選択したり、配置を指示したりできるアクションRPGだったが、今回はクイックブーストが追加された代わりに時間を止める要素がなくなり、かなりTPSによっている印象。

でもって、相変わらず細かいバグがやたら多い。Rainbow Six: Vegasのテロハントを彷彿とさせる「入った瞬間目の前にスポーンする敵」とか、突然Tの字になって下半身クチャクチャになりながら銃を撃つハメになるぐらいだったら、進行が止まらないだけマシだと笑えるレベル。だがME1からあらゆる角にスタックするリスクがあったりしていたので、今更である。

何しろシリーズ通して「未知の惑星をオープンワールドで冒険させる。星団は十個ぐらい行き来させる」という間抜け極まる最大級のスケールに真面目に取り組んでおり、それに見合うだけのロアやシナリオやアートワークも極大物量で勝負を仕掛けていく、賢くないブリザードとでも言うべきBiowareの全身全霊、金剛爆砕、五体投地の果てがこのMEシリーズであり、プレイヤーにはそれなり以上の海外的おおざっぱ品質基準への習熟度が求められるのである。そりゃ星を4つも5つもとんでもないスケールで作ってれば把握できない、もしくは直しきれないバグや矛盾なんかあるに決まってるのだ。

 

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 ▲フェイシャルアニメーションが妙にリアル過ぎたり無表情すぎたりするのが話題のAndromeda。自分だけの宇宙船をゲットしてやったぜ冒険に繰り出すぜという局面でこの顔である

 

 Biowareといえばダイアログ、というぐらい、同社は昔からRPGにおいてあらゆる会話に選択肢を持たせることに執着し続けてきた。膨大なダイアログの数はそれこそ天文学的なボリュームで、今作ではついにそこらへんの入植者一人一人に「開拓に来た理由」「今の仕事」「地元の情報」等々最低3~4つのおしゃべりとキャラ設定が詰め込まれるレベルまで行ってしまった。この調子だと次回作では人狼ができるようになるかもしれない。

謎解きとアクションの有機的な融合をキーワードに、偏執狂的な品質保証とロジカルシンキングで一つ一つの要素を極限まで高品質にすることにこだわったのが『ゼルダの伝説 ブレスオブワイルド』なら、とにかく社の全リソースとこれまでの蓄積を投じてロアを無限に拡大し続け、納期までにやれることをとにかく全部やってハンマー投げの要領で顧客の顔に叩きこみ「この営みこそが宇宙の真実だ、人間の力を知れ」と言い切るのが『Mass Effect』なのである。

 

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 しかし、大手レビューサイトも揃って言うのが、「バギーだが壊れているわけではない」。実際に何を取ってもAAAの期待を裏切らない程度に遊べる。個人的にもこのシリーズ以上に手になじむシューターを知らない。特にME2/3はカバーシューターとしてだけではなく、シングルプレイのシューターとしては最高のプレイアビリティを誇ると思う。そして自慢のヒューマンドラマとド王道のスペースオペラ展開。CoDが「一兵士の視点」を放り投げて久しいが、「宇宙の中のひとり」が振り絞る勇気が少しずつ周囲に伝播していき、世界を変えていくストーリーテリングの上手さは随一だ。だからBiowareのゲームは、これもしかり、Dragon Ageもしかり、海外のドラクエと呼んでも良いぐらいに愛されているし、EAもたっぷり広告費をかけて宣伝しまくってくれる。

 

だが、(ここからが本題なのだが)日本ではまっっったく、話題になっていない。

せっかく頑張ってTrilogyの日本語字幕が作られたのに、まーーーーーいない。

トーリーが伝わらないと、シングルプレイ+Waveクリア型の4人coopのマルチという形態がイマイチ刺さらないというのはあるかもしれない。それにしても、である。

DA三部作の一番目であるDragonAge: Originsですら74万ワードである。ざっくり一人の翻訳者が寝食惜しんで働き続けても一年半ぐらいかかるだろうボリュームで、もう120%赤字だろう。この点だけでEAめちゃくちゃ褒められるべきだと思うのだがどうか。

実をいうと、翻訳に関わる者としては悪名高い某社の商法の中でも『日本語DLC商法』に限って言えば「そらそうよ」以外の感想を持たない。Fallout界隈のように活発なコミュニティが誤訳をネタとして消化してくれるならまだしも、品質の条件に当たり前のように組み込まれては、そらプレイヤー母数からしてそろばんが合いまへん、そんなハードコアゲーマーでこのボリュームを開発に並行してやれる有能な翻訳者とチェッカーがどれだけいると思ってますのん、いくらでやってるか知ってまっか、というところ。

その上輸入モノは「吹き替え」と「字幕」でまずふるいがかかってしまうわけだし、届かないし届ける理由もないのがまあ、現実なのだ。

Biowareのゲームは、その特徴のためにこれからも日本国内ではマイナーなゲームであり続けるのかもしれない。

このメーカーのゲームをやるたびに、この「日本語」と「英語」の絶望的な隔絶に思いを馳せる。それこそ二つの銀河のように、言葉の世界だけでなくそれを構成する文化はあまりにも異なっていて、不幸なことに日本語圏の透過性はあまりにも低く、英語をフィルタすると完全に見えなくなってしまうものが多い。あらゆるコミュニティに外れものがいるように、日本国内にいることが正解である人間は必ずしも多くないはずなのに、国家の教育の差で選択肢が与えられないことは最悪だと思う。

 

Mass Effectの世界はAI翻訳/通訳の技術がとても発達しているという設定なので、異種族間でも細かい言い直しはしつつも基本的に問題なくコミュニケーションが取れるようになっている。多種族による銀河統合政府の運営には欠かせない要素だが、そうして作られた社会の中でも天の川にとどまる方が良いとする者と、600年コールドスリープしてでもアンドロメダに飛び込む方がマシだと考える者がいる。

始めから困難であることが分かっている以上、いざとなればショッパイ顔をするしかないことも多いが、未知なる可能性よ我らにあれ、と願わずにはいられない。

 

結局本題にもゲームそのものにも踏み込めない半端なエントリになってしまったが、続きはまたいずれ。