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七梨乃手記

……あなたは手記に食い込んだ男の指を一本一本引き剥がすと、頼りない灯りの下それを開いた。@N4yuta

TOKYO ART BOOK FAIRに出展します・1~出展作品について

『僕に間に合え』、9/19~21、C-33「de-part.jp」ブースにて販売。

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京都造形大学・東北芸術工科大学外苑キャンパスにて行われるTOKYO ART BOOK FAIR'15に出展できることになりました。

de-part.jpの白倉良晃さんが企画・デザインされた特殊製本にテキストを提供する形で、ショートストーリーを書かせて頂きました。

 

あらすじ

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『0時42分に、間に合うこと

        間に合わせること』

 

 多忙を極め、終電を追うばかりの生活を送っていた「僕」。

ある夜、一瞬の隙に気を取られている間に終電を逃してしまい、

寝静まった夜の街に独り、置き去りにされてしまう。

余りにも頼りない導きに従って当て所なく夜を彷徨う「僕」の頭の中に、

かつての「君」の声が去来する。

 

『人にとっての最高速度は、
  その人の歩く速さだから。
  その先はもう掴めないから』

 

交錯する時、記憶、想像、感情。

身体は一つしかない。でもその中にあるものまで一つとは限らない。

 

食べても食べても満たされないぼそぼそのスポンジケーキみたいな昼の言葉たちは全部暗闇に萎んでしまって、看板も標識も埋まって、それは僕らもそうで、何かを表すだけの言葉は意味がないから、僕は君の、君は僕の言うことをつないだ。それがすべての最小単位で、僕らはいつでもそこから始めて、何でも手に入れたし、どこにでも行けた。 

 

「僕」は思い出したのか。

    忘れたのか。

「君」はいなくなったのか。

    やってくるのか。

 

溢れだす時間は零れ落ちる時間となって、どんどんと喪われていく。

間に合わせだらけの世界で、「僕」は間に合うのか。

答えは時刻表の裏側に書かれた時間だけが知っている。

 

特殊製本「いいかげん折り」で作られた掌編小説 

『僕に間に合え』は、極めて珍しい特殊製本で有名な製本工場、(有)篠原紙工 様の製本モデル「いいかげん折り」を使用しており、薄口のブルーの紙に両面二色で、黒や白を一切使わず、街灯に照らされた闇夜や白み始めた早朝の空気を表現しています。

 

言葉の虚しくなる時間に滲み出る想像の世界が、ページをめくるごとにだんだんと(文字通りに!)広がっていき、一人歩きしていた言葉は何かに出逢い、織り上がっていきます。

 

ページごとに少しずつズレがあり、書かれた内容が“漏れ出す”この製本モデルは、主にリーフレットなどに使われていたようで、小説本としてのいいかげん折りのサンプルは、『デザインのひきだし』14号の付録ぐらいでしょうか。『僕に間に合え』は背綴じをしていないので、見た目は折りたたんだ一枚の紙なのですが、しかし、本です。

嬉しいことに、本作は篠原紙工様でも「いいかげん折り」のサンプルとしてご利用いただけるとのことです!光栄です!

 

この本で実現したかったこと。

それは紙の本の「道具」としての気持ち良さ……手繰ること、紐解くことの面白さをきちんと形にするということと、この言葉がどこまでも細切れに拡散していく現代で、その欠片を取り戻すことの意味を表すということです。

言葉は本来、常にイメージと寄り添っています。

言葉は、他人に自分のイメージを影絵のように投影するための“型”に過ぎないのです。

それを忘れた時、人の想像力は急速に渦を巻いて社会に飲み込まれてしまう。

それでも、隙を見つけては滲み出る。

それが想像力の強さなのだと思います。

 

『僕に間に合え』は一部500円で販売します。

七梨乃那由多は会場には行けませんが、何卒よろしくお願いいたします!